鴉の神話

熊野の八咫烏


カラスは鳥類の中でも神話に登場することが多い鳥です。
日本一有名なカラスは、神日本磐余彦尊(=神武天皇)の道案内をした賀茂健角身命、いわゆる八咫烏でしょう。
八咫烏」は固有名詞ではなく、「八咫」は「八咫鏡」のヤタと同じ意味で「大きい」と言う意味なので、「八咫烏」は「超でかいカラス」という意味になります。

釈日本紀』の山城国風土記逸文によると、
賀茂健角身命は神武天皇を導いて、桂木山から山城国は賀茂へ至り、賀茂川を上り、その地に静まったとされています。
そこで神伊可古夜日女との間に生まれたのが玉依日子で、これが賀茂氏の先祖となったといわれています。

なぜ賀茂健角身命はカラスに化身して神武天皇を助けに来たのでしょうか。

八咫烏といえば、日本サッカー協会の紋章にあるように、三本の足がトレードマークです。この三本の足は「天・地・人」もしくは「仁・智・勇」の象徴と言われています。
この三本の足は中国の神話に登場する金烏(きんう)という霊鳥に由来します。というか賀茂健角身命がこの金烏に化身したと言った方がわかりやすいです。

月にはウサギがすんでいますが、ソレに対して太陽に住んでいるのがこの金烏です。

このように八咫烏は太陽とかかわりの深い神鳥であり、「太陽を導く神」とも言われています。
その八咫烏が太陽神の子である神武天皇の先導をするのはごく自然なことであったわけです。

他にも「射日神話」というものもあります。
それによると古代には太陽は十個もあったそうです。とても暑そうですね。なので一つを残して九つの太陽を射落とすと、太陽は烏となって落ちてきたそうです。
これが現在の「オビシャ」とよばれる行事のルーツとなっています。


ギリシア神話でもカラスは太陽神の使いとして登場しています。カラスはもともと銀の翼を持ち人語を話したそうですが、太陽神の怒りに触れて黒焦げになってしまい、現在の黒くてカーカー鳴くカラスになったそうです。春の空に浮かぶ烏座(帆かけ星)がこれです。

シベリアのチュクチ族にはワタリガラスのクールキルが世界を創造したという神話が伝わっています。
インディアンの伝承にも、ワタリガラスが世界中の生き物に「生命の火」を与えた。というものがあります。

ケルト神話の闘いの女神モルガンの化身の一つバズヴは死のワタリガラス(Badb Catha)とよばれ、人間の死を予告するといわれています。
「カラスが鳴くと人が死ぬ」という言い伝えがあるように、カラスは幽世に通づる能力を持っているとみなされていたようです。
北欧神話オーディンも「思考」(Huginn)と「記憶」(Muginn)という名のカラスを連れていますが、これも人の死を予知するそうです。
そういえば矢追純一も「カラスの死体は異次元に消える」って言ってましたね。

カラスの目標に向かって一直線に飛ぶ性質も、「先導」という役割に大いに関係があると考えられます。英語で「カラスの飛ぶが如く」といえば「一直線」という意味になります。